江戸時代の風雨災害と大飢饉

三上岳彦

 JCDPでも詳しく紹介しているように、江戸時代には、全国の各藩で日記がつけられており、中でも弘前藩の日記(弘前藩庁日記)には、江戸時代約200年間の毎日の天気や気象災害の状況が克明に記載されている。弘前藩庁日記は、地元弘前と江戸藩邸の両方でほぼ毎日つけられて、天気や気象災害に関する記述についてはデジタル化されて出版公開されている(福眞, 2018)。
 そこで、弘前藩庁・江戸日記から、大雨や強風に関する記述を年代別に集計して、江戸時代における気象災害の長期変動傾向を調べてみた。以下は、前述の弘前藩庁江戸日記(福眞,2018)から安政3年8月25日(新暦:1856年9月23日)の天候関連記述を抜き書きしたもので、「安政江戸台風」と呼ばれ、江戸湾で大規模な高潮が発生したことで知られており、本サイトのコラムにも平野淳平氏による解説があるのでお読み頂きたい。

 ”安政3年8月25日  雨 今戌之下刻より大風雨丑之刻過止・寅之刻風止・御上屋敷物見より七八間之?並びに北表御長屋十四五間・東御門並びに右続き南吹倒・其外所々御屋敷破損・柳嶋御屋敷三ツ目御屋敷出水・今夜雷五六度発ス・地震は海辺津波人家押流・宇田川町出火有之、今日夜六ツ時過より大風雨ニ而諸御屋敷取?破損所等有之ニ付夜四時過より御家老並びに御用人一統出仕御機嫌伺申上”

 そこで、江戸時代約200年間(1671年~1860年)の暖候期(5月~10月)を対象に、10年ごとの大雨や強風の発生日数を集計して、グラフで示した(下図参照)。雨に関する表現は様々であるが、「大雨」、「雨烈し」、「風雨」、「終日雨」などの記述のみを集計してある。風に関しても、「大風」、「風烈し」、「風雨」、「烈風」など、強風と推定される記述に限定して集計した。

 このグラフから、江戸時代の大雨、強風発生に関して次のような特徴が読み取れる。
①江戸時代を通して、年代による変動はあるが、全体として大雨や強風の発生頻度が増加傾向にある。
②大雨と強風の発生頻度には、数十年の周期的変動が認められるが、そのピークは、江戸時代の三大飢饉と呼ばれる「享保の飢饉」(1720年代)、「天明の飢饉」(1780年代)、「天保の飢饉」(1830年代)に対応している。
③大雨が発生しやすい年代には、強風も発生しやすい。これはある意味で当然のことであるが、大雨や強風をもたらす原因の多くが、雷雨や発達した低気圧、台風などにあることを示唆している。
④一般に、江戸時代の大飢饉は、冷夏による凶作が引き金となって引き起こされると言われてきたが、夏季の低温や日照不足に加えて、大雨や強風などの発生頻度が増加することで飢饉を長引かせたとも言えよう。

【文献】

福眞吉美著『弘前藩庁日記ひろひよみ』《御国・江戸》CD-ROM(北方新社)2018年

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