J.C.ヘボン(J.C. Hepburn)の気象観測記録にみられる1868年夏の異常多雨

平野淳平

米国人宣教師ジェームス・カーティス・ヘボン(James Curtis Hepburn)(図1)は、明治期に来日し、医療活動に従事したほか、ヘボン式ローマ字の考案者として知られています。最近、ヘボンが1860年代に横浜に滞在していた際に、気象観測を行っていたことが明らかになりました。

図1.ジェームス・カーティス・ヘボン(J.C. Hepburn)
https://en.wikipedia.org/wiki/James_Curtis_Hepburn

 

ヘボンの気象観測記録は、日本アジア協会の機関誌“Transactions of the Asiatic Society of Japan”に Meteorological tables from observations made in Yokohama from 1863 to 1869 inclusive” (Hepburn, 1874)という表題の論文として掲載されています。表1 に示すように、この記録には、月平均、月最高、月最低気温のほか、月別の降水量と降水日数が1863-1869年について掲載されています。この記録は、ヘボンが創設者である明治学院大学の明治学院歴史資料館に保管されています。これらの観測記録は、気象庁の公式観測開始(1870年代以前)の気候変動の特徴を知るうえで貴重な資料です。特に、1870年代以前の降水量観測記録の存在はこれまでは、ほとんど知られていませんでした。

 

表1. ヘボンによる1863-1869年の気象観測記録 (Hepburn,1874)

私たちの研究グループでは、ヘボンの降水量データをもとに1860年代の横浜の降水量の年々変動を分析しました。その結果、図2に示すように、1868年は夏(6-8月)の降水量が他の年と比べて、極めて多かったことが明らかになりました。1868年夏の降水量は、1499.9㎜であり、現在(1981-2010年)の横浜の平年値(524.3㎜)の約2.9倍の雨が降ったことになります。一方、前年の1867年夏は降水量が少なく、乾燥傾向が強かったことが分かりました。つまり、1860年代後半は夏の降水量の年々変動が大きかったといえます。この記録を日本各地の気候災害資料と比較した結果、1867年は日本各地で夏に旱魃の記録がみられ、1868年は「洪水」や「長雨」、「大雨」の記録がみられることが分かりました。これらのことから、1867年の少雨と1868年の多雨は全国的現象であったと考えられます(Hirano et al., 2018)。

図2.横浜における夏季(6-8月)の降水量の年々変動 1863-1869 (Hirano et al.,2018).

 

参考文献

Hepburn, J.C. (1874): Meteorological tables. From observations made in Yokohama from 1863 to 1869 inclusive. Transactions of the Asiatic Society of Japan, from 22nd October, 1873 to 15th July, 1874, 244?248.

Hirano, J., Mikami,T., Zaiki,M. and Nishina, J.(2018):Analysis of precipitation data at Yokohama Japan, from 1863 to 1869 observed by J.C. Hepburn. Journal of Geography(Chigaku Zassi), 127, 531-541.

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