気候復元データ
「気候復元データ」とは、気象観測データの得られない歴史時代の気温や日射量などを、日記の天気記録から統計学的手法で推定した数値データのことです。例えば、東日本では7月の平均気温・平均最高気温と降水日数の間には高い負の相関関係があります。そこで、気象観測データの得られる期間について、7月の降水日数と平均気温の関係を直線回帰式で表し、気象データの得られない歴史時代の日記から求められた降水日数を回帰式に代入すれば、毎年の7月平均気温を推定することができます。同様にして、冬季の降雪率から平均気温を推定することが可能です。復元期間が近隣の気象官署の観測期間と重なっている場合は、両者を比較することで推定気温の精度を検証することができます。
本ページでは、山形県(川西町)と東京(八王子市)における18世紀以降の気温復元データを公開しています。
下記のデータは自由にダウンロードできます。なお、これらデータを使用して論文等を出版される場合は、文献を引用するか本サイト(JCDP)とURL・日付を明記してください。
7月平均気温:八王子 (35.64N 139.30E)・東京管区気象台 (35.69N 139.76E)
DATA
気象要素: 気温 データ期間: 1721-1941(八王子), 1876-2017(東京) 引用文献:Mikami, T., 1996. Long term variations of summer temperatures in Tokyo since 1721. Geographical Reports of Tokyo Metropolitan University 31: 157-165. PDF
1721年-2010年の東京(江戸)における7月平均気温時系列。グリーンは日記天気記録から復元した気温、グレーは観測気温(東京管区気象台)を示す。太線は11年移動平均値。Mikami(1996)に加筆修正。出典:PAGES news • Vol 20 • No 2 • December 2012
7月平均最高気温:川西(38N 140E)・山形地方気象台 (38.26N 140.35E)
DATA
気象要素: 気温 データ期間: 1830-1889(川西), 1889-2010(山形) 引用文献:平野淳平・大羽辰矢・森島済・財城真寿美・三上岳彦. 2013. 山形県川西町における古日記天候記録にもとづく1830年代以降の7月の気温変動復元. 地理学評論, 86A: 451-464.
冬季(12月~2月) 平均最低気温:川西 (38N 140E)・山形地方気象台 (38.26N 140.35E)
DATA
気象要素: 気温 データ期間: 1831-1889(川西), 1889-2010(山形) 引用文献:平野淳平・大羽辰矢・森島済・三上岳彦, 2012. 山形県川西町における古日記天候記録にもとづく1830年代以降の冬季気温の復元. 地理学評論, 85A: 275-286.
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「気候アトラス」偏差図を読む
平野淳平
気候要素(気圧、気温、降水量、日照時間・日射量など)の平均的な状態を把握するため気候学では「平年値」と呼ばれる値を使います。「平年値」とは、30年間の気候要素の平均値として定義されます。地球温暖化など気候変動によって平均値も変わるので、平年値は西暦年の1の位が1になる年ごとに更新されます。例えば、2011 年から 2020 年までの10年間は、1981―2010年の平均値が「平年値」として使われていましたが、2021年に更新され、2021 年から 2030 年の10年間は、1991-2020年の平均値を「新平年値」として使用するようになりました。
天気予報で「平年よりも暖かい(寒い)」と解説されることがありますが、この場合、「平年」とは気温の「平年値」のことを意味します。つまり、気温の「平年値」は、各年の暖かさ(寒さ)などを評価する際の基準なのです。各年の気温と平年値との差を「偏差」と呼びます。気温の場合、正偏差は平年より温暖な状態を意味し、負偏差は平年よりも寒冷な状態を意味します。気温偏差の分布図を描くと、平年より気温が高い地域(正偏差域)と気温が低い地域(負偏差域)の分布が分かります。
降水量についても、気温と同様に「平年値」を基準とした偏差図を描くことができます。ただし、降水量の場合は、平年値に対する降水量の比(平年比)によって偏差を表すことが一般的です。例えば、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生した年について、降水量偏差図を描くと、平年より多雨(少雨)な地域が分かります。気候アトラス「世界」のページには、「エルニーニョ発生時の夏季(6月~8月)と冬季(12月~2月)の世界降水量偏差図」を掲載しました。ただし、偏差の基準としては、30年間の「平年値」ではなく、降水量データが得られる1979-2021年の43年間の平均値を使用しました。緑系の色の地域は平年より多雨な地域で、茶系の色は平年より少雨な地域です。エルニーニョの年に熱帯太平洋東部で多雨、西部で少雨になっていることが読み取れます。
さらに、降水量偏差図を海面水温偏差図と比べると、海面水温偏差と降水量偏差の対応関係が分かります。例えば、「エルニーニョ年の冬季DJF海面水温SST偏差分布図」では、熱帯太平洋東部が赤系の色で着色されており、平年より海面水温が高いことが分かります。エルニーニョ年はこの海域の海面水温が高いので、積雲対流が活発化して多雨になるのです。
「ラニーニャ発生時の夏季(6月~8月)と冬季(12月~2月)の世界降水量偏差図」をみると、エルニーニョ年とは逆(熱帯太平洋の東部では多雨、西部では少雨)のパターンが表れています。ラニーニャ年は、熱帯太平洋東部で平年よりも海面水温が下がる(ラニーニャ年の海面水温SST偏差分布を参照)ので、積雲対流活動が抑制され少雨になるのです。
JCDP「気候アトラス」には、今後も様々な気候偏差図を掲載する予定です。高校の地理・地学教育や大学教養課程の講義で「異常気象」やその空間分布について解説する際に、「気候アトラス」に掲載した「偏差図」を活用されることをお勧めします。